特別講演1 朝比奈真由美先生

IPEで推進する薬剤師のプロフェッショナリズム 

講演者名:朝比奈 真由美
所属先 :東邦大学医学部

概要
プロフェッショナリズムとは,医療専門職が専門家(プロフェッショナル)・専門職集団(プロフェッション)としてどのように振舞うべきか,ということである.1990年代から概念や教育方法の研究が本格化したが,それまでは個々の学修者が医療専門職集団の仲間入りをしたのちにロールモデルの背中を見て暗黙のうちに徐々に身につけるものと考えられてきた.一方,専門職連携教育IPEも1990年代に英国から始まり,現在は世界中の医療専門職養成課程で行われるようになっている.英国のIPE推進センターによる定義は「複数の領域の専門職が,連携とケアの質を改善するために,共に学び,お互いから学び,お互いについて学ぶこと」である.IPEについて研究が進む中で,KhaliliらはInterprofessional Sosialization(IPS:専門職間社会化)に基づくIPEを提案した.医療専門職の教育では従来,単一の専門職教育の中で排他的な専門職のアイデンティティ形成が強化されてきた.その教育により学習者の「職業グループ内への好意」と「それ以外への偏見」を発達させ,様々な専門職役割の知識と理解が制限され,専門職間の協働に抵抗する要因となってきた.彼らは専門職の教育を学生が社会化するプロセスとしてとらえ,IPSを個人が専門職と専門職間の両方の信念,価値観,行動,および「協働的実践準備状態」を獲得することにより,専門職と専門職間の二重のアイデンティティ(dual identity)、すなわち個人が自分自身を自職種(In-Professional Favoritism)と多職種コミュニティー(Interprofessional Favoritism)の両方に同時に属するという強い感覚を開発するプロセスとした.またHaizlapらは医学教育には連続的に強化されているネガティブバイアスの文化があると指摘した.シミュレーション,口頭試問,臨床推論などの一般的な教授法において,医学生は最悪のシナリオに注目するように,あるいは医療ミスなどの失敗をおかす不安によって,また口頭試問では同僚の前で恥ずかしい思いをするなどの脅迫によって教えられてきた.そのようなネガティブ方向への教育バイアスは臨床実践の場にも継続し,学生や研修医のうつ病や燃え尽き症候群を発症しやすい文化となってきた.彼らは「パフォーマンスの高いチームのメンバーは単に自分の視点を主張するのではなく,お互いにポジティブな発言が大幅に多かった」という研究結果からIPEなどでのポジティブな感情が人々の行動を広げると主張した.今回の講演ではそれらの理論と千葉大学のIPEの実践例を紹介する.

     

特別講演2 藤崎和彦先生

医療プロフェッショナリズム教育

講演者名:藤崎和彦
所属先 :岐阜大学医学教育開発研究センター

概要
 医療者教育全体にアウトカム基盤型教育が導入され、ほぼすべての医療職種教育のコアカリキュラムのアウトカム(求められる資質)にプロフェッショナリズムが掲げられている。本講演では世界的な医学教育改革の流れの中でプロフェッショナリズム教育が位置づけられてきた過程を確認したうえで、プロフェッショナリズム教育やコミュニケーション教育などを含めた能力の養成を、近年、教育学で注目されている「非認知能力の教育」という視点から検討したい。
 教育学の領域では、知能や学力の教育に偏重しがちであった従来の教育に対する反省から、この間、ロールプレイやシミュレーション、自己省察、多職種連携、ケーススタディ、ディベート、メンタープログラム、ストレス対処、対話型鑑賞、フォトボイスといった様々な参加型教育を「非認知能力の教育」という形でまとめるようになっている。
 「非認知能力の教育」は「これをすればすべて高まる」というものがあるわけではないものの、生活スタイル全体の変化が心理特性の変化へと繋がり、最終的にプロフェッショナリズムの望ましい変化を生み出すと考えられている。時間があれば本学の地域体験実習で行っているフォトボイスと対話型鑑賞を用いた取り組みについても紹介したい。